過失割合は変更されることがある
過失割合は、神の目からみれば1つしかありません。
また、裁判所における判決による認定の場合でも、最終的には1つの判断がなされます。
ところが、話がまとまりそうになったり、話がまとまった過失割合について、加害者側の保険会社から突然、「予測と異なる過失割合である」との話が出る場合があります。
個別の事故においてそれぞれ異なる原因があると思いますが、ここでは大きく分けて①事件の性質のちがい、②時間的な経過、によって過失割合が変更されるケースを説明します。
事件の性質のちがい(物損部分と人身部分)
「自動車対自動車」での人身事故があったと仮定します。
自動車同士の事故ですから、自分が運転していた自動車に損傷(物損)が生じています。
そのため、自動車の修理代金の見積りを取り、自動車を修理する期間、「代車代金」を加害者側の保険会社に支払ってもらいます。
時間が経てば、自動車の修理は完了します。
さて、この段階で、通院中である「人身部分」とは別に、「物損部分」についての損害額は一応、確定します。
しばらくすると、保険会社から物損部分についての「示談案」が届きます。
前述したとおり、保険会社にもよりますが、担当者は、物損担当と人身担当に分かれていることが普通です。
物損担当者に対して、過失割合の納得がいかない旨を伝えたとします。
すると、「それなら5%分はまけてあげるから、それで示談してください」といった内容の話が出ることがあります。
この話がまとまると、「物損部分」は5%分をまけてもらって、示談が成立します。
さて、その後、「人身部分」についても示談をする段階になったとしましょう。
被害者は、物損部分について5%分をまけてもらって示談したから、人身部分も物損部分と同じ過失割合で示談できると期待するでしょう。
しかし、人身担当者が必ず5%分をまけてくれるというわけではありません。
そのため、被害者にとって納得できないという事態が発生します。
これは、
- 人身部分は高額になることが多いのに対し、物損部分は少額で済むことが多い
- 物損部分は損害の確定が事故から短期間で済むので、物損部分は先行して早期に示談を成立させ、担当者の手持ち案件を何とか減らしたい
という事情から、物損部分はいわば「大目に見てあげる」という場合があるということが理由です。
もっとも、この場合はあくまでも「大目に見てあげる」というだけであり、法的に裏付けが必ずしもあるわけではありません。
本来的に過失割合が「90:10」の事故であれば、保険会社において、人身部分についても「大目に見てあげる」必要はまったくないのですから、人身担当者は、本来的な過失割合からまったく折れないことになります。
また、本来的に過失割合が「90:10」の事故であれば、物損はたまたま「大目に見て」もらったにすぎないので、たとえ裁判をしたとしても、過失割合は変わらない可能性が非常に大きいのです。
保険会社の物損担当者が被害者に有利なことをいっていたとしても、それが絶対ではないということを、被害者も記憶にとどめておく必要があります。
時間的な経過(新証拠が出てくる)
「時間的な経過」による過失割合変更の例は、本来的な意味での過失割合の変更です。
キーワードは、「新証拠の出現」です。
たとえば、事故が起こり、早い段階で保険会社から「今回の過失割合は100:0ですね」という話があったとしましょう。
ところが、ある日突然、保険会社から「今回の事故は、過失割合は80:20です。前の話はなかったことにします」という話が伝えられることがあります。
当事者間に生じた争点は、当事者の主張とそれを裏付ける証拠によって決まります。
保険会社が過失割合を提示した際に判明していた証拠・事情のほかに、被害者にとって不利な証拠(被害者側の重大なスピード違反など)が新たにみつかれば、当然、当初保険会社が提示していた過失割合は変更されることになります。
これは、時間の経過とともに証拠が出現し、徐々に真相が明らかになってくるという、紛争解決の性質そのものが原因なのです。
そのため、「はじめは保険会社が100:0と言ったのだから、それが変わるのは納得がいかない」という被害者の気持ちはわかるのですが、事故の真相として過失割合「80:20」の事故であれば、裁判をしても、やはり過失割合を「100:0」にすることはできないのです。
過失割合が変更された理由を冷静に検討する
過失割合は、すで説明したとおり、お互いの感情論ではなく事故態様によって定まります。
保険会社から、はじめにいわれた過失割合と異なる過失割合を主張された場合、ムキにならず「なぜ、過失割合が変更されたのか」を冷静に検討する必要があります。
それは、ひいては、その事故における適切な過失割合とは何かという問題なのです。
保険会社の主張する過失割合が適切なものかどうかを疑問に思った場合には、弁護士に話を聞いてみるのがよいでしょう。